長距離バスはキツイ

 若干、横道に逸れて。
 『思想』(2006年、3月号)は、『思想』誌初の福祉特集(「特集にあたって」の広井良典の言)だが、私の友人や先輩、(心の)師も書いている。

 まだ全部読んでいないのだが、とりあえず、この号で注目したいのが、岩田正美「バスに鍵はかかってしまったか?――現代日本の貧困と福祉政策の矛盾」。

 岩田正美氏は、おそらく日本で№1の社会福祉学者だと思う。No1というゆえんは、その問題意識とフットワークの軽さ、それに最先端の理論消化が加わった稀有の研究をいくつも生み出しているからだ。
 この論文でも、スナップショット的に貧困をとらえる(貧困線の上か下かを問題にする)視点に対して、貧困を動態的にとらえるという新たな視点を、パネル調査や社会的排除という最新の方法・理論の解説を手際よく行いながら提示し、実際にデータを分析(紹介)している。

 岩田氏の主張は、(貧困の)バスの中にいること自体が問題なのではなく、バスの乗客が入れ替わっているか、バスのドアが開いているかどうかを考えることが大事だということだ(バスの比喩は、エスピン-アンデルセンの言らしいが、そんな気の利いたことを言っていたのね)。
 この考え方は、不利益自体でなく、不利益が集中することを持って「障害disability」概念をとらえる福島・星加(実際は、この点は、星加のアイディア)に近いところがある(参考:福島智・星加良司「<存在の肯定>を支える二つの<基本ニーズ>――障害の視点で考える現代社会の「不安」の構造」『思想』(2006年、3月号))。福島・星加論文に対しては、ゼミナリステンとして言いたいことがたくさんあるが、本人たちに(酒の席で)言うことにしよう。