分人

 涼しい秋風が夏の疲れを眠気に変える季節になってきました。そろそろ始動しなければなりません。夏休みの宿題も終わっていないのですが。
 さて、ふらりと散歩をして平野啓一郎の新作を買ってきました。と言っても小説ではなく新書での思想書

 平野啓一郎は同年の作家なのですが、初期の難しい小説はともかく、『ドーン』を読んで、問題関心がとても近いと思うようになり(というか、多くの人が考えることに形を与えてくれるのが売れっ子の小説家だから、一読者としてそれに感銘を受けたということなだけなのですが…)、注目するようになりました。
 この本は、その『ドーン』で提示されていた「分人dividual」という概念について説明し、思想を展開した本です。「個人」や「アイデンティティの同一性」とそれに対比される「キャラ」という概念枠組みではなく、「個人」を前提としない「分人」という発想で人間を見ていこう、また、「分人」という発想で物事のあるべき姿を考えていこう(分人主義)というような内容です。
 この考え方は、学術的に見たら、ジンメルが言っていた社交圏と近代における個人という話とどう違うのか、とか、あるいはポストモダン以降の「構築主義」的なものの後に何素朴なこと言ってんだ、とか、色々あるのだと思いますが、端的にわかりやすく、また私もこのくらいの深度でこういうことを考えたり言ったりするのはそれなりに重要だと思うので、いい本が出たなあという印象です。

私とは何か――「個人」から「分人」へ (講談社現代新書)

私とは何か――「個人」から「分人」へ (講談社現代新書)

ドーン (100周年書き下ろし)

ドーン (100周年書き下ろし)

 また、モーニングで連載をしていたんですね。これも読むかな。

『空白を満たしなさい』
http://morningmanga.com/kuhakuwo/

追記:「私とは何か」でアマゾンを検索すると、一番上に出てくるのが、この平野の本。次が上田閑照、その次が浜田寿美男。脳神経科学的な本が上がってこなくて意外でした。浜田寿美男さんの本もとてもいい本です。

「私」とは何か (講談社選書メチエ)

「私」とは何か (講談社選書メチエ)