メモ【年金制度】

福祉社会学宣言

福祉社会学宣言

これだけの研究をこの年まで続けて(しかも5年に一度くらい大著を出している)のに脱帽。明治期の恩給制度とその後の年金制度とのつながりを論じた「権利主体としての「老年」の形成」と、それに対する多田英範氏の反論に対してリプライした部分が興味深かった。
 社会福祉学の立場から多田氏があくまでも、(規範的に)社会保障制度における生存権と恩給的なものを切り離して考えよう(考えるべきだ)としているのに対して、社会保障全体における生存権を機能させる設計として、社会保険における「商品経済的な権利」を上位において、公的扶助にスティグマ性を付与してきたという議論を対置している。
 また、「下向普及」と「上向普及」という概念を導入し、社会保障制度におけるさまざまな分野の変化において「上向普及」的なものと「下向普及」的なものとを分類している。

……軍人や官吏のための恩給が船員や労働者、自営業者や農民のための年金保険に継承されていったのは、年金制度の「下向普及」である。あるいは、権利主体としての「老年」というカテゴリーにかぎっても、恩給から船員保険、労働者年金保険、国民年金への「下向普及」がみられる。
 公的扶助は、制度の原理的性格が最下位の経済階層の生存保障と定められていて、「上向普及」の動きが出にくい。それでも、古くからある世帯分離制度の適用例は事実上の「上向普及」とみなすことができる。二〇〇五年の生業扶助での高校進学の学費の支出が認められた変化は、近年にめずらしい「上向普及」の一例であろう。被保護世帯の子どもの高校・大学への進学のための便宜的措置はこれまでにもあったが。
 老人ホームにかんしていえば、老人福祉法が制定された当時、貧困老人を対象にした養護老人ホームがほとんどであった。のち、中流上層までの老人が利用する軽費老人ホームが出現し、帰属階層にかかわらず病弱老人、寝たきり老人を対象とする特別養護老人ホームが主流になるという事態の変化があった。これは、全体として、老人ホームの「上向普及」である。
 総じていえば、日本の社会保障において、年金保険は「下向普及」の傾向をもち、社会福祉は「上向普及」の傾向をもっている。公的扶助もしいていえば、わずかに「上向普及」の傾向をもつ。医療保険は、戦前期、健康保険につづいて国民健康保険が創設されたのは「下向普及」、職員健康保険が創設されたのは「上向普及」とみるべきか。敗戦直後、一九四七年に創設された失業保険は、失業者の生活保障を制度の目的としているので、「上向普及」、「下向普及」の双方の傾向が出てこない。概していえば、社会保険制度のなかで、「下向普及」する制度はスティグマと無縁である。「上向普及」する制度はスティグマを希薄にする。二つの動きがともにない制度はスティグマを利用者に変わらず刻印する(152-154)。

よく考えると(考えなくても)色々と疑問が出てくるが、「選別主義と普遍主義」の議論とどう関わるのか気になるところ。

追記)
と、JICAでこんな図を作っているな。考えてみれば誰でも考えそうなことと言えばそうだけど。たぶん副田氏が上向とか下向を強調する(&オーソドックスな社会福祉学者からみると??思われる)のは、国家の統治と支配層との関係で、社会保障や福祉をとらえようとしているからだと思う。JICAは途上国の援助が専門だからそういう視点になるよね。
http://gwweb.jica.go.jp/km/FSubject0601.nsf/3b8a2d403517ae4549256f2d002e1dcc/db3c784bc6ff33a0492571fb000ae4d8?OpenDocument