お勉強

  • 第6章 医師の視点からみた研究倫理

 以前に聞いたときには研究と治療の区別というのがピンとこなかったけれど、倫理委員会をやるようになってから、この論考がとても重要なことを言っているということがようやく分かった。
 142から144にかけての「医療における個と集団のディレンマ」の部分が重要。

  • 第7章 遺伝子医療時代における倫理規範と法政策――生命倫理学と法学の知的連携にむけて

 難しい。引用している論争を含めてもう一回読む必要。哲学者と倫理学者の議論を法学者が批判的検討しているものを扱った論考。

  • 第8章 出生前診断の倫理問題――遺伝子、胎児の資産分析の試み

 この論文は面白かった。というか、遺伝子や胎児を資産として概念化し、経済学的分析にかけてみて、そこから漏れる部分を明らかにして政策的対応とつなげていくというアプローチがとても新鮮で面白く見えた。なるほどという感じ。

現代の会計学では、資産とは用役潜在力がある財、すなわち将来キャッシュフローを発生させる財と定義されており、必ずしも売買の対象になる財とは限らない。胎児と通常の資産との違いは、胎児の取得が経済活動によってなされるわけではない、という点にとどまるだろう。この状況下では、親による胎児の所有権という法的、倫理的問題がどう問われようと、経済現象のなかでは事実上、胎児は家計にとっての資産として現前することになる。同様に考えると、遺伝子も資産である。遺伝子は資産としての胎児の一つの構成要素をなす。もしある胎児が遺伝子診断を受け、ある特定の疾患遺伝子があることを理由に中絶されたとしたら、その現象は、負の資産価値をもつ疾患遺伝子が胎児全体の資産価値を低下させ、胎児はそのために中絶された、と説明できる。(191頁)

中絶や胚の廃棄を伴わない従来の医療、福祉は基本的に遺伝子、胎児の価値を押し上げていく経済的効果をもつ。だが、中絶を前提にした出生前診断は、遺伝子の価値を低下させる。二分脊椎の出生前診断が普及したために、治療の必要な二分脊椎小児に対し適切な医療を行える医師が激減した英国の例が想起できる。一般に、特定の疾患に罹患した人の出生率が一定水準を割れば、その疾患に対する医療福祉水準は後退すると考えられる。また、その疾患に対する医学的な研究意欲は低下するだろうし、製薬会社は新たな医薬品開発の動機を失うことにもなりかねない。つまり、疾患遺伝子の価値は、現在から将来にわたって、その疾患関連の医療、福祉サービスに配分される社会的資源と相互に影響し、正の相関をなしていると考えられる。(192頁)

  • 第9章 「脱医療化」する予測的な遺伝学的検査への日米の対応――遺伝病から栄養遺伝学的検査まで