Public Sociology

 最近、電子ジャーナルをチェックしていなかったので、2008年から2009年にかけてSociology of Health & Illnessをチェックしてみる。Housing Studiesが公衆衛生学的な議論と深く関係しているという話を聞いていたが、この雑誌においても、居住をテーマにした、それっぽい論文がたくさんある。下記の論文は、HIA(Health Impact Assessment)を地域で実施していく際の住民との協働みたいなことを論じたものだが、HIAの測定項目の中心には居住の質みたいなものが多く含まれているようだ。それも、単なる住宅の質に限ってではなく、コミュニティとかアクセスの問題なども指標に入れているみたい。加えて、単に尺度評価するだけでなく、デルファイ法みたいな感じでキーパーソンにインタビューをして、そうしたデータも加えている。

  • Elliott, Eva and Gareth Williams, 2008, Developing public sociology through health impact assessment, Sociology of Health & Illness, 30(7):1101-1116.

 しかし、この論文の主眼は、指標それ自体というよりも、HIAを実施していく上で住民の関与をどう実現していくかというところにある。普通考えられているような、科学的知識(アカデミック)があって、住民や実践家がそれを(民主的に)実施に移すという分業関係を構築するということではなく、住民などの素人の経験や知識が、指標や疫学的研究に内在的に取り込まれていくような道筋について考えていて、そうした道筋をつけていくのがpublic sociologyの役割であると言っているようだ。
 この議論、アメリカのブラウン大学の医療社会学者、環境社会学者フィル・ブラウンの民衆疫学(popular epidemiology)の議論と強い関連を持っている。民衆疫学については、下記文献に解説がある。成さんは社会運動論や環境社会学を専門とし、水俣をフィールドとして議論を展開している。

  • 成元哲2008「市民科学の実践としての民衆疫学の可能性」松田昇他編『市民学の挑戦――支えあう市民の公共空間を求めて』梓出版社:120-143.

 フィル・ブラウンの本は読まないといかんな。あと、日本でのこの種の議論はやはり水俣病における医学的知識の位置づけの問題で、津田敏秀さんの『医学者は公害事件で何をしてきたのか』とか、伊勢田哲治さんの『疑似科学…』の第4章や5章あたりと一緒に読むとよいかもしれない。
 数値によって問題が作られるといった点に、現在の社会問題の特徴を求めるリスク社会論的視点に対して、言わばシステム対生活世界みたいな図式を提示する以下のような議論は、どう評価すればよいだろうか。

近年、環境問題が大きく変化したといわれている。たしかに、環境問題そのものが時間的にも空間的にも拡大し、また複数の化学物質に同時に曝露され、その因果関係の解明が極めて困難な状態である。しかし、因果関係が不明確、かつ複雑になっても、一貫して変わらぬことは、地域に住み、生活する人によるリスク探知が、科学者や政策決定者のそれより、時間的に先行するということ ある。こうした住民にリスク探知およびその情報を、科学者や政策決定者が早期に把握するためには、直接フィールドを歩くことが肝要である。上でも述べた近代疫学の創始者スノーが実践した「革靴の疫学」がその先駆例であろう。1854年、当時ロンドンで流行していたコレラの原因物質を探るために、スノーは地域住民の証言の聞き取りや自ら地域をたんねんに歩き、調査を行っている。その結果、コレラが水の汚染と関係があることを見出したのである(成2008:137)。

方法?方法論?【質的研究】

 質的研究について喋らなければならなくなってしまった。

はじめての質的研究法―医療・看護編

はじめての質的研究法―医療・看護編

 後半のそれぞれの研究者が論文の概要を紹介して、それについて反省的に振り返る章が面白かった。登場する研究者は医師や看護師としての臨床経験を持つ保健学系の研究者が多いが、文化人類学者(宗教人類学者)もいる。
 重要な洞察もあるので、あとで引用しておきたい。

質的調査法を学ぶ人のために

質的調査法を学ぶ人のために

 
 後半の佐藤郁哉さんや、古賀さん、他院生(当時)を交えた対談から読み始める。佐藤郁哉さんに他の人たちが尋ねるという感じになっている。基本的には佐藤郁哉さんや健二さん(←この本には出てきません)が言うように質的量的は二分法関係ではないという主張に同意しつつ、補完的に作業するためにはどうしていったらよいかという部分を議論していく必要があるだろうと思う。

 ついでに5月くらいから6コマ分、看護学系の院生に対するクラスも持たないとならない。レクチャーはつかれるので購読&実習&研究者を呼んでセミナーにしようかと思うけど、テキストは何にしよう。思いっきり認識論的なものを購読テキストにして、実習では思い切り実践的なことをやらせようか。とりあえず自分の学部講義を評価してもらう(一回目が評価指標づくり、二回目がその指標に基づく焦点を絞った観察みたいな)か。Dementia Care Mapping法の映像を見せるというネタも使い古してしまってもう飽きたしな…。